業務部の三浦です。
・会社の歓送迎会に誘われ、残業を中断して会に参加。
・飲酒せず、他の社員を社用車で送り届けたあと、残業のため会社に戻る途中に事故で死亡。
亡くなった男性の妻が、国に労災認定を求めた訴訟で、最高裁が7月8日、二審判決を破棄して、労災と認める判決を言い渡しました。
これ、「なぜこれがすぐに労災認定されないのだ? 何のための労災保険だ? 監督署は労働者イジメか? 会社が労災認定されないように遺族に協力しなかったのではないか?」などと直感的に感じるのが一般的な感覚ではないでしょうか?
お気持ちは良くわかります。
でも、考えてみて下さい。
最高裁に至るまで
1)労災請求:労基署長不支給決定
2)労災審査請求:労働保険審査官不支給決定
3)労災再審査請求:労働保険審査会不支給決定
4)行政訴訟一審:否認
5)行政訴訟二審:否認
6)最高裁判決:認定
おそらく5回、「労災適用されない」と判断されています。
仮に明らかな行政の怠慢だったのであれば、一審で覆るはずです。
労災保険制度に精通した方々が同種事例の過去の認定結果、裁判結果を鑑みて、しっかり精査して「労災と認める訳にはいかない」と5回も判断しています。
つまり、とても判断が難しい事案だった。
もしくは、最高裁レベルになってやっと新たな証言や証拠が提出された。
そう考えるのが自然です。
遺族補償はとても高額です。
皆様からお預かりしている労災保険料等が原資ですから、簡単に労災認定する訳にはいきません。
判断が難しいのであれば審査請求や行政訴訟のプロセスに移すのは間違いとはいえません。
今後の他の事案にも影響を及ぼします。
本件はそんなに珍しい事案ではなくて、飲み会や運動会、社内旅行などのレクリエーション絡みの労災事案はこれまで数多く存在します
ですので、これまでの定石で判断すれば、その時点で請求者である遺族や会社から提示された情報では歓送迎会に業務起因性が認められなかったのでしょう。
歓送迎会が業務でないのであれば、その前にいったん業務は終わっている訳ですから、宴会場を起点として会社へ移動する為の経路はその日2回目の「通勤」と判断されます。
通勤災害の場合、「住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復すること」という基準が労災保険法にありますから、これをもとに考えれば通勤災害としても認定できない。
想像ですか、こんな判断プロセスだったのだろうと思います。
勿論、最初の請求で労働基準監督署が被災者や会社から全ての情報を収集して正確で極めて高度な判断が出来ればよいですが、時間も権限も限られていますから現実はそんなに簡単ではないです。段階が進んでプレッシャーを受けなければ出てこない情報もあります。
行政訴訟において正当なプロセスを経たのであれば最初の判断が覆ることは決して悪とは言えません。
本件の詳細を精査した訳ではありませんが、労働行政がしっかり仕事をされた結果ではないかなと私は思います。