淀川労務協会の三浦です。

 

社員が朝出社すると社内の様子がいつもと違うことに気づきます。

本社の監査室から監査官が数名訪れ社員が出社する前に社内の管理体制を徹底的に調べている真っ最中だったのです。

監査の順番が営業部に回ったところで監査官が異変に気づきました。

本来、『最重要書類』として施錠金庫内にしまわなければならない顧客の機密情報資料が机上にそのまま放置されていたのです。

 

「この書類を放置したのはいったい誰ですか?」

 

監査官が甲営業部長に尋ねます。

背後に座っている乙支社長の表情が一瞬にして曇りました。

 

一定の沈黙の後、甲部長がこういいます。

 

「・・・丙部長代理です。」

 

営業部の社員はその書類を放置したのは甲部長であることを皆が知っています。

 

監査官が丙部長代理に尋ねます。

 

「丙部長代理、本当ですか?」

 

穏やかで物静かな丙部長代理は一瞬驚いた表情を魅せるも、下を向き、こう言いました。

 

「・・・はい、私です。」

 

丙部長代理はこれまでの経験から、事実を伝えるよりもその方がまだ良いと判断してしまったのです。

 

後に丙部長代理は関連子会社に異動となりましたが、しばらくして退職してしまいました。

後に聞いた話によると、この事が原因で通勤途上で毎日毎日嘔吐するほどメンタルに異常をきたしたことが退職の原因でした。

尚、営業部の若手社員の半数がこの件から1年以内に退職してしまったとの事です。

 

 

これは上場企業A社で実際にあった事例です。

 

当時はパワハラの問題が一般的ではなく大きなトラブルに発展しませんでしたが、パワハラが社会的に知れ渡った今、こういったケースで丙部長代理が甲部長とA社を相手取り訴えを起こすことがあります。

 

その際、まず間違いなく私どもには乙支社長からこういう感じで相談があります。

 

「調査した結果、甲部長が責任を丙部長代理に押し付けようと嘘をついたと認めました。甲部長をどう処分すればよいでしょうか?」

 

このような相談に対しては得てして「丙部長の処分の手順と程度」についてのアドバイスに終始しがちですが、私はまず最初にこう尋ねるようにしています。

 

「支社長、なぜ丙部長はそのような嘘をついたのでしょう? 何か思い当たる節はありませんか」

 

こうやって突き詰めていくと、例えば企業の人事制度に極端に厳しい減点方式が根付いていることがあり、経験上これを解決しない限りはまた同じような問題が高確率で起こります。

これがきっかけで社員が辞めてしまったとなれば、それは本当に大きな損害です。

 

個人が嘘を生んだのか? 組織が嘘を生んだのか?

 

対処療法的にトラブルの解決をご支援させて頂くことももちろん重要ですが、それと並行して根本的な問題解決(全体最適化といいます)を目指すことが再発防止のためにとても重要であると私は考えます。