淀川労務協会の木村(朋)です。
「富士通は2013年春入社から、高い職業意識とスキルを持つ優秀な人材を確保することを目的として、文系の新卒大学生を対象にした職種別採用を導入する」との報道がありました。
対象とする職種は、「営業」「購買」「法務」「システムエンジニア」「知財」などのようです。
理系の採用では比較的多くみられる職種別採用ですが、文系を対象にするのはめずらしいと思います。
就職活動に臨む学生としても、希望職種以外に配属される心配がありませんし、企業としてもミスマッチによる離職を防ぐことができますので、双方にとってメリットのあることだと言えます。
それではここで、職種別採用をするということは労働契約においてどのような効力を生むのか、ということを少し考えてみたいと思います。
契約のしかたもよりますが、職種別採用するということは、一般的にはその内容が労働契約の一部となります。
このように職種を限定した労働契約を締結した場合、将来的に何らかの事情で職種変更をさせる際には、原則として本人の同意が必要となります。
もし同意が得られない場合は、
・業務上の特段の必要性があり
・その従業員を異動させるべき特段の合理性があり
・これらの点についての十分な説明がなされている
というハードルをクリアする必要があります。
いわゆる「総合職」に対するキャリアデザイン施策に基づくジョブローテーションを実施する際に職種変更が行われるわけですが、職種限定社員の場合はこのような施策の対象外であるため、通常は職種変更することはありません。
ただ、近年多く見うけられるメンタルヘルスの問題に伴う休職からの復職時には、企業の安全配慮義務の観点等から一時的な職種変更を検討する必要性が生じる可能性があります。
通常の労働契約であれば、復職にあたっての業務上の必要性・合理性があれば、会社の持つ人事権として職種変更を命じることも視野に入れることができますが、職種限定であればやはり本人の同意がない限り、早期復職に向けた支援を実施できない可能性が出てきます。
雇用調整の一環として実施する配置転換等に伴う職種変更時にも、同じような問題が起こり得ます。
大企業であれば受け皿的な側面からも大きなリスクにはならないかも知れませんが、少数精鋭で組織される中小企業において職種限定採用を検討する際は、このような観点から、潜在的なリスクを念頭において慎重に行うことも大切だと思います。