淀川労務協会の三浦です。
貨幣価値(額面)としては同一でも、「金の含有量の少ない貨幣(悪貨)」と「金の含有量の多い貨幣(良貨)」が同時に存在する場合、人々は質の悪い貨幣だけを使い、質の良い貨幣は使わずに家にしまっておくそうです。結果、良貨はタンス預金となって市場の貨幣の流通が鈍化し、経済に悪影響を及ぼします。
これが、「悪貨は良貨を駆逐する」というグレシャムの法則なのですが、有名なハーバード・サイモンという経済学者はこの法則を組織論に置き換え「ルーチンは創造性を駆逐する」と唱えました。
ヒトは定型的な業務に追われそれを日々繰り返していると、なぜその業務を行うのかという本来の目的に立ち返ることが無くなるそうです。
そうなると当然、未来に向かって長期的な視点で重要なものごとを考えることもなくなり、思考の創造性が失われます。
勿論、ルーチンは業務の合理化(時間短縮等)やアウトプットの均質化など何等かの目的をもって為されるものであり、それ自体を否定するものではありません。
ですが、時日の経過よりそのルーチンに携わる人達も入れ替わり、ルーチンの当初の目的が忘れ去られ、またその当時には有効であったルーチンが現状やこれからの企業運営にFITするものなのかという未来思考が奪われます。定型的業務の目的を上司に問うと、「ずっとそのやり方でやってきたから」という返答が返ってきてガッカリした経験が皆さんにもあるのではないでしょうか?
労務管理の現場でも同じような事象がよく起こります。その最たるものは人事制度です。
そもそも人事制度が一定のルーチン化を目的とするものなので起こるべくして起こる問題とも言える訳ですが、当初は崇高な目的をもって制度化された人事制度でも、人事担当者や従業員が入れ替わる事により、制度の目的を真に理解していなかったり、理解していても従業員への周知が不十分であったり、間違った周知をしてしまう事があります。
また、従来のやり方の踏襲は目先においては安心で楽なので、過去に定めたその人事制度が現在の自社においても効果的なものであり、未来の自社の発展に寄与するものであるかどうかを見直すことに億劫になりがちです。
例を挙げてみると、人事制度を構成する1つの要素である賃金制度において、成果型賃金制度やダブルインカム(夫婦共働き)が主流となった現代においても、手厚い家族手当が支払われ続けているケースなどがあります。
もっと極端なケースで言えば、雇用契約書を取り交わさず口約束だけでヒトを雇用してきた会社の社長が、「うちみたいな小さな会社は大丈夫だよ。いままでそれで何のトラブルもなかったから。」と良くおっしゃいます。
インターネットの普及により労務知識が豊富で、労務問題にセンシティブになってきている労働者の意識の変化に社長は気づいていないのです。
このように時日の経過とともにルーチンを取り巻く諸事情が変化したことに気づかずにいると、ルーチンが当初目指していたはずの効率や生産性が逆に失われることがあります。
つまり、ルーチンであるとはいえ、定期的にその目的を確認することが必要です。
そして、ルーチン化した当初には想定していなかった労務環境の変化が起こっていないかどうかをチェックし、それらの変化がルーチンに及ぼす影響を検討するべきです。
我々は各顧問先に対し、労務管理において出来る限りそのチェック機能の役割を担っていきたいと考えています。