業務部の三浦です。

リーマンショック以降、特に外資系企業において「ロックアウト型退職勧奨」というものが増えつつあるとのこと。

以下、一例を挙げます。

ある社員がいつものように出社してくると別室に呼び出され、そこには人事部の担当者が待っています。
そして、突然、丁寧に退職勧奨(退職金の上積み額が設定)されます。

「もし、今あなたに退職のご意志があるのであれば、退職金に●●%加算させて頂きます。お気持ちはいかがですか?」

驚いた労働者は当然、拒否します。
すると、人事部の担当者からこう告げられます。

● 残念ですが、現在当社は人員過剰という問題を抱えており、会社都合により貴方に本日からの無期限休業命令を発令します。
● でも安心してください。休業期間中は通常の月例賃金と同額の休業手当を支給致します。これは労基法以上の対応です。
● 職場のスペースの問題であなたのデスクやロッカー、PC等も一旦、他の従業員が使用することになります。私物は全て持ち帰って下さい。持ち帰りが困難な場合には、宅配便でご自宅に郵送させて頂きます。
● 休業期間中は原則自宅待機となりますから、セキュリティの問題で入館証や身分証、名刺、バッジ、鍵、等何もかも全て一旦返却してください。メールアカウントも一旦抹消します。
● 1点、休業期間が長引けば長引くほど、退職金の上積み部分は逓減していきます。

するとどうなるか・・・。

職場内にその方の存在の事実が外形的には消えてしまう訳です。
つまり、時日の経過とともに、「その方は戻らないものだ」という認識が職場内に醸成され、既成事実化されていきます。既に退職したものだと誤解する者もいるでしょう。

休業中のその従業員は、仮に戻れたとしても職場に居場所がないという不安と、どんどん退職金が逓減していくプレッシャーによって、ついには退職勧奨に応じ辞めていくそうです。

俗に言う「落ちる」という事なのでしょうが、エリート社員のプライドを利用した何ともいやらしい手法です。
入館証等の回収等も、「セキュリティ」の為と言ってしまえば、不当とは言い切れません。

詳細は割愛しますが、使用者にとって自由度の高い退職勧奨を利用したこの手法は今のところ比較的リスクの少ない手法であるように思います。

ただ、ここで述べる「リスク」というのは「法的リスク」という意味です。

外資系コンサル会社のような組織への帰属意識を重視しない契約主義の会社であれば、従業員もそれをある程度了承した上で入社してくるはずですから、ロックアウト型退職勧奨を行うことによる組織への現実的影響度も小さいのかもしれませんが、帰属意識や、集団的生産性、チームワークやコミュニケーション等、組織における人間関係を強く求めてきた日本的企業で、このような機械的手法を利用すると、会社によっては組織崩壊への一歩となることもあります。

人員削減に限らないことですが、「リスクが少ない」、「法的に問題ない」という説明を鵜呑みにせず、現実的リスク、現実的インパクトがどの程度予測されるのかを大局的、俯瞰的、長期的によく吟味し、時間と労力を惜しまず、自社に合った最良な選択をして頂きたいと思います。